今回は未邦訳の小説、メキシコの児童文学「メキシコランド”Mexicoland”」について紹介したいと思います。こちらは以前紹介した「サラマンダークラブ “el club de salamandra”」と同じ、Jaime Alfonso Sandovalによる青少年のための小説です。
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本書は児童文学といっても、メキシコの現実や現代社会を反映した練り込まれた世界観、激しい暴力や搾取の描写、主人公に次から次へと降りかかる試練など、重厚な物語となっています。
お話は主人公のクアウテモック君(以下、小説内のあだ名に従ってテモ君と呼びます。ちなみに、クアウテモックとはアステカ11代目皇帝の名前です!)が学校で校長室に呼び出される所から始まります。冒頭のテモ君は普通の少年らしく、学校生活にいそしみ、クラスの女の子に夢中。しかし、校長先生から両親が地下鉄で飛び降り自殺をしたという衝撃のニュースを聞かされるところから、テモ君の運命は暗転し、怒涛の物語が始まります。
この物語世界は現実のメキシコとはかなり異なっています。私たちがいる世界のメキシコは数十年前マフィアとの戦争によって滅び、当時の為政者はメキシコシティの限られた土地に土地と人民を隔離し、更にいくつかの行政区分を設け、治安の維持を図りました。

ただしその世界は厳密な法律がいくつも設けられており、それを破ったものは返しきれないほどの政府への借金を負い、返せない場合は子どもや孫の代まで借金を返し続け、借金返済のためには、死の危険を伴うほどの劣悪な社会奉仕など、いくつもの過酷な仕事が用意されています。そしてなんと、自殺もこの世界では犯罪の一つとみなされ、テモ君は両親の自殺により、莫大な借金を背負わされます。さらに国民はフードテックという、自動販売機から出てくる加工食品ばかりを食べていますし、出版される本は限られており、テレビ番組も政府によって厳格に統制されています。そして、この世界には一般市民とは別に建国者の子孫という特権階級が存在し、ビーチ沿いの高級住宅街に住んでいるということなのです。そして建国の祖、国のシンボルとして尊敬を集めているのがアンジェラ・ディアス・ウィルソン(Angela Diaz Wilson)という国家元首。主人公テモ君も子供の頃からアンジェラ元首を称える歌を歌わされたとのこと。
そして前述の両親の自殺による借金のために、テモ君は何十階もある高層マンションの配達員として、過酷な日々を過ごします。それだけではありません。流れる水がどんどん勢いを増すように、テモ君の運命もどんどん過酷なものになり、配達員の仕事の後は危険な少年たちが集められる少年院への移送、死と隣り合わせの下水処理場での仕事、そしてドラッグを注射されながら金持ちや観光客のためにプレーするサッカーチームへの加入など、少年の意志を超えた運命によって、境遇がどんどん暗転していきます。心を締め付けられるのが、主人公が必死に頑張っているのにも関わらず、状況がどんどん悪くなっていくこと。物語が進むにつれて、児童文学とは思えないほど壮絶な展開が待ち受けています。そんな苦しい展開の中でも、テモ君が必死に友人や好きな女の子を助けようと一生懸命に頑張る姿に心を打たれます。そして終盤、物語世界の過酷さは変わりませんが、テモ君のこれまでの苦労や誠実さが報われるどんでん返しが。日本語にも訳されてほしいほど、息もつかせぬ急展開と終盤のカタルシスが読みごたえのある小説です。
Mexicolandとは物語の中盤以降テモ君が送られることになる、建国者子孫と観光客のためのアミューズメントパーク。カリブ海に面したビーチにゴルフ場、アステカなどの先住民文化を模したショー、バーやレストラン、高級ホテルなどで観光客を誘致しようという政策によって建設された施設です。物語の中の一般市民が制限された厳しい生活を送る一方、外国観光客や建国者子孫たちは現実のセレブのように自由と娯楽を享受しています。

そしてこの小説のもう一つの魅力は、現実のメキシコを反映していること。小説の中で国家元首を称える歌を歌うという描写がありますが、メキシコの学校でも、毎週月曜日に国家を歌う習慣があるそうです。マフィアと軍との激しい戦闘もこれまで実際に起こっていますし、つい最近はワールドカップのための地下鉄改装に批判が集まりました。(改装にお金をかける一方、メンテナンスがほとんどされておらず実用性が改善されていないので、観光客のことばかりでメキシコシティ市民のことは考えていない、という批判がありました。)メキシコに長く住んでいる人なら「分かる分かる」、と思わず頷いてしまうような描写が随所にあり、メキシコを知らない人にとっては、日本と全く違う社会のあり方が興味深く映るのではないかと思います。
ダークな世界観と序盤から終わりまで続きますが、斬新な設定と練りこまれた世界観、エネルギッシュな文体についついページを捲り続けてしまいます。これまでにないタイプの物語が読みたい人、スペイン語読解に自信がある人は是非手に取ってみてください!










