AI(人工知能)の急速な発展に伴い、デジタルインフラへの需要が世界的に高まっています。メキシコでもデータセンター市場が拡大しており、北米市場へのアクセスに適した立地を強みに、地域のデジタルインフラを支える拠点としての役割が大きくなっています。
市場規模も今後さらなる成長が見込まれています。ただし、今回のデータセンター市場の拡大は、単にIT分野への投資が増えているという話ではありません。メキシコの雇用市場や、現地で事業を展開する日本企業にも、新たな機会をもたらす動きとして捉えることができます。
メキシコにおけるデータセンターの種類
メキシコでは、拡大するデジタル需要に対応するため、用途や規模の異なるデータセンターの建設・開発が進められています。主な種類は次の4つです。
- ハイパースケール型データセンター(Hyperscale)・クラウドリージョン
世界規模のクラウドサービスや、大量のデータ処理を支えるための大規模施設です。 - コロケーション・相互接続型データセンター(Colocation)
企業や通信事業者にサーバーの設置スペースや電力設備を提供する施設です。複数の事業者が設備を共同利用でき、さまざまなクラウドサービスとの接続にも対応しています。 - 企業専用型データセンター(Enterprise)
金融業や製造業など、規制の厳しい業界の企業が、自社のシステムやデータを管理するための施設です。
メキシコでは、フィンテック法や個人データ保護法(LFPDPPP)などに基づき、取引記録や個人データの適切な管理・保護が求められています。こうした法規制への対応やデータ管理の重要性の高まりも、企業専用型データセンターの需要を後押ししています。 - エッジ型・小規模データセンター(Edge/Micro)
データが発生する場所の近くで処理を行う小規模な施設です。情報を遠くのデータセンターまで送る必要がないため、通信の遅延を抑え、素早く処理できるのが特徴です。

データセンターの開発が各地で加速
メキシコにおけるデータセンターの拡大は、クラウドサービスやAIの急速な普及、企業のデジタル化、そしてニアショアリングの進展によって後押しされています。
ケレタロ州:大規模データセンターの集積地
Next Move Strategy Consulting(NMSC)によると、メキシコのデータセンター市場規模は2024年に50億2,000万ドルに達し、2030年には87億6,000万ドルまで拡大すると予測されています。年平均成長率(CAGR)は8.71%に上る見通しです。
この成長の中心となっているのがケレタロ州です。世界的な大手テクノロジー企業が相次いで進出し、ハイパースケール型データセンターの集積が進んでいます。
- Microsoft(マイクロソフト)2024年にクラウドサービスの提供を開始し、ケレタロ都市圏に複数のデータセンターと3つのアベイラビリティゾーン(独立して運用できる設備拠点)を設けています。さらに、クラウドやAI関連のインフラ整備に向けて、3年間で13億ドルを追加投資する計画を発表しています。
- Google Cloud(グーグルクラウド)2024年12月にクラウドリージョン「northamerica-south1」を開設し、メキシコ国内に3つのアベイラビリティゾーンを設置しました。
- Amazon Web Services(AWS)2025年1月、メキシコ初となるクラウドリージョン「Mexico(Central)」の運用を開始しました。3つのアベイラビリティゾーンを備え、今後15年間で50億ドルを超える投資を計画しています。
México Industryによると、ケレタロ州にデータセンターが集中する理由には、通信速度の向上に加え、重要なデータを国内で管理したいという企業側のニーズがあります。特に金融機関やフィンテック企業にとって、取引記録や機密情報を国内で安全に保管することは、法規制への対応という面でも重要です。
また、大手クラウド事業者だけでなく、企業向けにサーバーの設置スペースや通信接続サービスを提供する事業者も、ケレタロ州で拠点を拡大しています。
- Ascenty(アセンティ):州内に3つのデータセンターを展開。合計81MWの電力容量と6万4,000平方メートルの施設面積を有しています。
- Equinix(エクイニクス):エル・マルケスにMX1とMX2の施設を運営し、クラウドプラットフォームへの直接接続サービスを提供しています。
- KIO Networks:メキシコシティのサンタフェ、インテルロマス、トゥルティトラン、トルーカのほか、モンテレイ、エルモシージョ、メリダなどにも主要拠点を展開しています。

新たなデータセンター拠点と各地域の動向
グアナファト州
グアナファト州は、バヒオ地域における新たな戦略的拠点として、急速に存在感を高めています。
- ODATA / Aligned Data Centers は、サン・ミゲル・デ・アジェンデとアパセオ・エル・グランデに、稼働中の2施設と開発中の1施設を展開しています。これらの総投資額は6億3,000万ドルに上ります。
- 電力インフラには4,500万ドルが投じられ、専用の60MVA変電所が整備されています。
モンテレイ・ヌエボレオン州周辺
- Equinix は、アポダカにAI関連の処理需要に対応したMO1とMO2の施設を運営しているほか、7,900万ドルを投じた新施設の建設も発表しています。
- KIO Networks も同地域に拠点を構えており、AIサーバー関連の需要に対応するため、設備能力の拡張を進めています。
メキシコシティ首都圏(CDMX・メキシコ州)
メキシコシティ首都圏には、金融機関や一般企業向けのデータセンターが多く集まっています。特に、サーバーの設置スペースを提供するコロケーションサービスや、通信の遅延を抑えたデータ処理への需要が高い地域です。
- KIO Networks は、サンタフェ、インテルロマス、トゥルティトラン、トルーカに拠点を持ち、地下光ファイバー網を通じてケレタロ州の施設とも接続しています。

地域別の主要データセンター事業者
| 地域 | 主な事業者・施設 |
|---|---|
| ケレタロ州 | Microsoft, Google Cloud, AWS, Ascenty, Equinix (MX1, MX2) y KIO Networks |
| モンテレイ | Equinix (アポダカのMO1, MO2) y KIO Networks |
| メキシコシティ首都圏 | KIO Networks (サンタフェ、インテルロマス、トゥルティトラン、トルーカ) |
| シウダー・フアレス | Microsoft |
| エルモシージョ | KIO Networks |
| メリダ | KIO Networks |

IT分野にも広がるニアショアリング
2023年半ば、メキシコにはサプライチェーンの移転・再編を背景に、350億ドルを超える外国直接投資(FDI)が流入しました。そのうち約60%が自動車産業に集中し、全国で400か所以上の工業団地の開発を後押ししました。(Global Insight Wire)
しかし、デジタル経済の急速な発展によって、ニアショアリングの対象は従来の製造業だけでなく、企業のデータ処理やIT関連業務にも広がり始めています。企業が自国や近隣地域でデータを処理できる環境を重視するようになり、ニアショアリングは生産拠点の移転から、ITインフラの整備へと対象を広げているのです。
こうした動きと大規模な技術投資を背景に、メキシコのデータセンター市場はさらに成長すると見込まれています。NMSCによると、メキシコの市場規模は2024年末の50億2,000万ドルから、2025年末には57億7,000万ドルへと拡大し、2030年には87億6,000万ドルに達する見込みです。
主な企業の投資動向は以下のとおりです。
- Amazon Web Services(AWS):ケレタロ州のクラウドリージョンに対し、15年間で50億ドルを超える投資を計画。
- Microsoft:クラウドおよびAIインフラの整備に向け、3年間で13億ドルの投資を表明。
- KIO Data Centers:メキシコ国内での累計投資額は9億ドル超。
- Equinix:モンテレイの新たなデータセンターに8,100万ドルを投資すると発表。施設完成時には総投資額が約1億8,900万ドルに達する見込み。
ダイキン、パナソニック、住友電工――メキシコで広がる日本・アジア企業の技術投資
AI向けの高性能プロセッサーは大量の熱を発生させるため、データセンターでは高度な冷却技術が欠かせません。こうした設備を支える日本企業の技術は、北米だけでなく、欧州やアジアのデータセンターでも重要な役割を担っています。
ダイキン工業は、ティファナでの投資拡大を決定し、1億ドル以上を投じてAHU(空気調和機)の製造を進めています。AHUはデータセンター内の温度を適切に管理するために欠かせない設備です。
パナソニック ホールディングスは、2027年からメキシコでデータセンター向け蓄電システム(ESS)の量産を開始する計画です。また、住友電気工業は、メキシコ中部で光ファイバー用コネクターの生産を開始しています。
台湾企業による投資も活発化しています。Foxconn(鴻海精密工業)は、AIサーバーの生産に向けてメキシコの子会社に4億6,000万ペソを追加投資しました。さらに、Quanta Computer(広達電脳)もメキシコ北東部で組立ラインを拡張しています。
データセンターの拡大が人材市場にもたらす変化
AI関連の設備投資やデータセンターの建設が進むにつれ、専門的な技術や知識を持つ人材の需要も高まっています。2026年にメキシコ経営者連盟(Coparmex)が開催した全国労働フォーラムでは、民間企業や政府の関係者から、AIの急速な普及に対応するためには、生産性の向上と人材育成を国家的な視点で結びつける必要があるとの意見が示されました。
Coparmex会長のフアン・ホセ・シエラ・アルバレス氏は、現在そして将来の仕事に求められる能力を身につけられるよう、「人材育成を国家的な投資として捉える公共政策が必要だ」と強調しています。こうした人材育成が進めば、メキシコの労働者が新たに生まれる職種にも対応できるようになり、生産性の向上や正規雇用の拡大にもつながると期待されています。
米国の事例から見るメキシコの人材市場
Indeed Hiringの調査によると、米国ではデータセンター関連の求人が過去2年間で大幅に増加し、求人広告1,000件あたり2件から6件へと増えています。一方、米国のテクノロジー業界全体では雇用が6%減少しており、データセンター関連職種への需要の高さが際立っています。
特に、データセンターの建設や運用に伴い、電気設備やネットワークの保守・管理を担う技術者など、従来からある技能職の需要が大きく伸びています。こうした職種では、他業界の同等のポジションと比較して、提示される時給が最大42%高くなるケースもあります。
福利厚生も比較的充実しており、退職金・年金制度や育児休業制度などで、他業界よりも手厚い条件が提示される傾向があります。その一方で、勤務条件は必ずしも良い面ばかりではありません。他業界と比べて夜勤を伴う求人は最大40倍、出張の頻度は最大50%多いとされており、勤務時間や対応できる時間帯については、より高い柔軟性が求められています。






